グローバルナビゲーションへ

本文へ

ローカルナビゲーションへ

フッターへ



ドクターインタビュー

ホーム >  ドクターインタビュー >  外科統括部長 中西良一医師に聞く!

外科統括部長 中西良一医師に聞く!


中西良一外科統括部長

中西 良一(なかにし りょういち)Dr.
【所属】呼吸器外科
【資格など】
外科専門医
呼吸器外科専門医
気管支鏡専門医/指導医
日本外科学会認定医/指導医
日本胸部外科学会評議員/会誌編集委員会委員/認定医/指導医
日本呼吸器外科学会特別会員/指導医/ロボット支援手術プロクター
日本呼吸器内視鏡学会監事/評議員/指導医
日本気管食道科学会専門医
肺がんCT検診認定医
日本肺癌学会理事/評議員/ガイドライン悪性胸膜中皮腫委員会委員長/ガイドライン検討委員会委員/データベース委員会委員/肺癌登録合同委員会委員
日本外科学会代議員
日本内視鏡外科学会評議員
関西胸部外科学会理事
愛知臨床外科学会幹事/評議員
東海外科学会特別会員
肺癌学会中部支部会理事/評議員
呼吸器内視鏡学会中部支部会理事/評議員
日本医療安全調査機構個別調査部会員
Surgical Case Report 誌 Associate Editor
General Thoracic Cardiovascular Surgery 誌 Editor
名古屋市立大学 名誉教授
蒲郡市立ソフィア看護専門学校 学校長

少ない負担で質の高い手術を多くの方々に届けたい

 2008~2013年にかけて、世界初となる高難度手術を4件成功させた実績を持つ呼吸器外科の世界的権威、中西良一先生。令和4年3月末に名古屋市立大学を定年退官され、同年4月に蒲郡市民病院に外科統括部長として着任されました。
 今回は、これまで数多くの内視鏡手術を成功させてきた中西良一先生に、世界初となった4件の手術ついてお聞きしました。

世界初の4つの肺がんの内視鏡手術

Q.中西先生は前勤務地である名古屋市立大学病院以前から、進行肺がんの内視鏡手術を手がけており、世界で初めての手術を4領域で成功させたと伺いました。4つの手術は、それぞれどのような手術だったのでしょうか。

A.私が行った世界初の4つの手術はいずれも内視鏡手術、つまりは胸に小さな穴をあける胸腔鏡での手術であります。

①内視鏡を挿入することが極めて困難な「片肺患者の肺葉はいよう切除術」

 一つ目は「片肺患者の肺葉はいよう切除術」です。
 これは事故や病気などで2つある肺のうち片方の肺を無くした方の、残ったもう片方の肺にがんができてしまった患者さんの手術です。最初の事例は右肺のみの片肺の患者さんで、肺というのは右肺が3つ、左肺が2つに分かれた構造(肺葉)をしているのですが(図1)、残った右肺の真ん中の肺葉にがんができた患者さんでした。
 肺がんの胸腔鏡手術の麻酔方法は、片肺換気麻酔と言いまして、健康な側の肺で呼吸をしてもらいながら、がんのある側の肺の呼吸を止めるのが一般的です。胸腔鏡手術では肺が縮まっていないと手術が出来ないというのが普通ですので、手術をする側の肺の呼吸を止め、肺を縮ませて手術を行います。
 しかし肺が一つしかない患者さんの場合は、この片側換気麻酔ができません。そのような状態で、がんのある肺葉以外の上側、下側に空気が入ってくる困難な手術をしたのが世界で初だったということでした。
 さらに同じく「片肺患者の肺葉切除術」の2例目も行いまして、2例の比較も行った上でアメリカのトップジャーナルに発表し世界初の手術例となりました。

②肺の全摘出を回避する「肺動脈形成術」

 二つ目は「肺動脈形成術」です。
 進行肺がんの患者さんで、右肺の心臓に近いところにがんがあった場合、以前は右側の肺を全部取る必要がありました。しかし片方の肺を全部取ってしまった場合、今後は残りの肺一つで生きていかなければなりません。片肺になると、風邪をひいただけで命の危険にさらされることがあります。そのため我々呼吸器外科医は、20年以上前からがんのある肺を全部取ってしまうことをできるだけ避けておりました。
 肺の動脈にがんが食いついてしまっている場合、一般的には片方の肺を全摘出しないと取れないのですが、私は動脈だけをくりぬいて内視鏡下でその動脈を修復し、右肺の全摘出を回避するという手術を世界で初めて成功させました。

③内視鏡手術では不可能と考えられていた「気管分岐部形成術」

 三つ目は「気管分岐部形成術」です。
 気管分岐部というのは口や鼻から吸い込んだ空気が左右の気管支に分かれていく部分のことです。ここにがんができた場合、放っておくと右にも左にも空気が行かず最終的には呼吸ができなくなります。手術は胸を大きく切り開く開胸手術でも難しく、それを内視鏡手術で行うのは無理だと考えられておりました。
 私のもとに来た患者さんは内視鏡手術を希望しておりましたが、大学病院などの大きな病院で手術を断られ、最終的に「どんながん手術でも内視鏡で行っている」という噂を聞きつけて私のもとへ来られた方でした。私にとっても気管分岐部の内視鏡手術は初めての経験でしたので困りましたが、胸部外科のチームで話し合い、患者さんの安全性を担保できるならという条件でチャレンジしてみようということになりました。
 まず左側の肺を気管支から離断し、片肺の換気麻酔を行い右肺のがんの部分を取り除いた後、最終的に全部を繋ぎ合わせるという手術でした。午前9時から午後5時までかかる大手術でしたが、スタッフもこれが世界で初めての手術だということを知っていましたので、無事成功し終わったときには手術室は拍手喝采でした。
 1年後、再発もなく経過しておりましたので論文にして世界に発表しました。反響が大きく様々な国からメールが来たり、スペイン人の医師が同じ方法で世界で2例目の手術をされたという報告を受けたのをよく覚えています。

④心臓に癒着-最高難度のその先-「残肺全摘除術」

 四つ目は「残肺全摘除術」です。
 患者さんは、過去にがんで左肺の下部分を切除した後に、不幸なことに残った上の部分にがんができてしまったという症例でした。残った左肺の上部分をまた切除すれば良いと思われると思いますが、一度手術した場所というのは色々な臓器が癒着するんですね。そのため、前回の手術の近くを再び手術するのは困難なわけです。心臓にも癒着があるため大きく胸を切り開く、開胸手術のほうが安全なのですが、術後のことを考え内視鏡での手術を行いまして、その結果患者さんは術後十日もかからず退院することができました。
 この手術を「残肺全摘除」といいますが、2016年に厚生労働省が“開胸しての”胸部手術の中で最も難しい手術の一つとして挙げていました。我々のチームはそれを2007年時点で“胸腔鏡で”行い、世界で初めての手術としてアメリカのトップジャーナルに発表しました。

このほか中西Dr.が医師になったきっかけ、蒲郡市民病院での今後についてなどのインタビューは、海風15号に掲載しています!

インタビューの様子を動画で公開中